台所でだしを取っていると、うちのパフィ(ポメプー・メス・2歳・5.12kg)が足元に来ます。人の食べ物をねだる子ではないんですが、湯気の立っている鍋にはやたら反応するんですよね。海藻は人にはヘルシーな食べ物なので、少しくらいならいいのかなと思って調べ始めたら、想像していたのとだいぶ違う数字が出てきました。
結論を先に書きます。犬に海藻を食べさせていいです。ただし「海藻」でひとくくりにすると計算が合いません。 のり・わかめ・昆布ではヨウ素の量が桁でちがい、5kgの犬が1日にとれる上限に届くのが、昆布なら0.5g、焼きのりなら全形16枚。同じ上限に、96倍ちがう量で届きます。そして本当に気をつける先は、昆布そのものよりだしを取ったあとの汁でした。
犬に海藻は食べていいけれど、種類で96倍ちがいます

犬に海藻を与えて問題ありません。気をつけるのは海藻かどうかではなく、そのなかのヨウ素がどれだけ入っているかです。 同じ「海藻」でも、昆布と焼きのりでは1グラムあたりのヨウ素が96倍ちがいます。
文部科学省の食品成分データベース(八訂増補2023年版)から、台所にありそうな4つを引いてきました。
| 海藻(食品番号) | ヨウ素 | ナトリウム | 1gあたりのヨウ素 |
|---|---|---|---|
| まこんぶ 素干し 乾(09017) | 200,000µg/100g | 2,600mg | 2,000µg |
| カットわかめ 乾(09044) | 10,000µg/100g | 9,300mg | 100µg |
| 焼きのり(09004) | 2,100µg/100g | 530mg | 21µg |
| 湯通し塩蔵わかめ 塩抜き 生(09045) | 810µg/100g | 530mg | 8.1µg |
昆布が2,000で、焼きのりが21。おにぎりに巻いたのりを一口ぶんもらった子と、だしがらの昆布をひと切れもらった子では、体に入る量がまるで違います。「海藻は少しならいい」という言い方が成立しないのは、この差のせいです。
ちなみに塩の量も見ておいてください。カットわかめの乾燥は100gに9,300mg。表のなかでいちばん多いのはヨウ素ではなく塩のほうだったりします。
5kgの犬が1日にとれるヨウ素は約1,000マイクログラムです
犬のヨウ素には、公開されている上限があります。AAFCO(米国飼料検査官協会)の犬用栄養基準で、ヨウ素の上限は乾物1kgあたり11mg、エネルギー換算で1,000kcalあたり2.75mgです。 下限は同じく1,000kcalあたり0.25mg。
これをパフィに当てはめます。5.12kgの安静時エネルギー要求量は238kcal、活動係数1.4〜1.6をかけて1日333〜381kcal。上限は0.92〜1.05mg、つまり約920〜1,050マイクログラムです。下限のほうは83〜95マイクログラム。この記事ではきりよく1,000で計算していきます。
下限があるということは、総合栄養食を食べている時点で、その最低量はもう満たされているということでもあります。足すぶんに使えるのは、上限までの余白だけ。ここを見落とすと「体にいいから」で上に積み上げてしまいます。
なお、この上限は昔からこの数字だったわけではありません。以前のAAFCOの上限は50mg/kgでしたが、馬の耐容量が5mg/kgと10分の1であることなどを踏まえて、2007年に11mg/kgまで引き下げられています。上限のほうが後から厳しくなった栄養素です。
1,000マイクログラムは、昆布0.5gとのり16枚で並ぶ

上の表とこの1,000を掛け合わせると、種類ごとの「1日ぶん」が出ます。ここがこの記事でいちばん見てほしいところです。
| 海藻 | 5kgの犬の1日の上限に届く量 | 見た目でいうと |
|---|---|---|
| まこんぶ 素干し 乾 | 0.5g | 親指の先くらいのかけら |
| カットわかめ 乾 | 10g | 味噌汁10杯分くらい |
| 焼きのり | 48g | 全形16枚 |
| 湯通し塩蔵わかめ 塩抜き | 123g | 小鉢4杯 |
焼きのり全形1枚は3g(19cm×21cmが標準)なので、16枚で48g。のりを16枚食べさせる飼い主はいません。 つまり、のりは実質的に気にしなくていい海藻です。おにぎりのはしっこをちぎってあげたぶんは、上限の数パーセントにしかなりません。
わかめも、味噌汁に入っている量なら大きくはずれません。乾燥のカットわかめ1杯ぶんは1〜2gくらいなので、100〜200マイクログラム。上限の1〜2割です。
問題は昆布だけ。0.5gという数字は、キッチンスケールに乗せてもほとんど針が動かない量です。
昆布で本当に気をつけるのは、だしがらより汁のほうです
ここが上位の記事に載っていなかった話です。だしを取ると、昆布のヨウ素は汁のほうへ移ります。
中京女子大学の伊藤正江さんと河合潔さんが日本調理科学会大会(2007年)で発表した「昆布の茹で調理時におけるヨウ素の溶出に関する研究」では、日高昆布を80℃の蒸留水で茹でて、時間ごとの溶出を測っています。30秒で約半分、4分ほどでほとんどが水のほうへ出ていました。
つまり順番が逆なんです。だしがらの昆布を犬が盗み食いしたときより、味噌汁の汁を舐めさせたときのほうが、入るヨウ素は多くなります。
だしの一般的な割合は水1Lに昆布10g。昆布10gのヨウ素は20,000マイクログラムなので、煮出してほとんどが移ったとすると、だし汁1Lに20,000マイクログラム前後という計算になります。お椀1杯150mlなら3,000マイクログラム。5kgの犬の1日の上限の、およそ3倍です。
「昆布は食べさせていないから大丈夫」と思っていたら、汁のほうを毎日少しずつあげていた、という状態はわりと起こりうると思います。しかも味噌汁には味噌の塩分も入っています。うちでは食卓のものを床に落とさない運用にしていますが、汁物だけは別に気をつけようと思いました。
うちの子は、もう毎日海藻を食べているかもしれません

台所の海藻を心配する前に、確かめたほうが早い場所があります。フードの袋の裏です。
わんらいふナビに登録している口に入る商品120点の原材料表を、機械で抜き出してから1点ずつ読み直しました。
| カテゴリ | 登録数 | 原材料に海藻を確認 |
|---|---|---|
| ドライフード | 74 | 27(36.5%) |
| ウェットフード | 7 | 6 |
| サプリメント | 21 | 3 |
| おやつ・トッピング | 16 | 0 |
| 合計 | 120 | 37 |
ドライフードは3点に1点以上、ウェットフードにいたっては7点中6点に海藻が入っていました。 表記は「海藻」「乾燥ケルプ」「昆布」「わかめ」とばらばらですが、どれも同じ話です。
入っているのは偶然ではなく設計です。総合栄養食はさっきの下限(1,000kcalあたり0.25mg)を満たす必要があって、海藻はその供給源のひとつとして使われています。ヨウ素のほかにミネラルと食物繊維も入るので、フード側からすれば理にかなった材料なんですよね。
実際に海藻が入っていた商品を並べておきます。ご自宅のフードが下にあるかどうか、袋の裏と見比べてみてください。
| 商品 | 原材料の表記 | ミネラル類にヨウ素の記載 |
|---|---|---|
| カナガンデンタルドッグフード | 海藻(アスコフィラムノドサム) | あり |
| ネルソンズドッグフード | 海藻 | あり |
| エッセンシャルドッグフード ハイランドリビング | 海藻 | あり |
| ヨラドッグフード | 海藻 | — |
| ミシュワン小型犬用 | 海藻、昆布、わかめ | — |
| このこのごはん | 昆布、わかめ | — |
| 馬肉自然づくり | 昆布、わかめ | — |
| ブラックウッド5000 | 海藻、ケルプ | — |
| ココグルメ | 昆布 | — |
| うまか | 昆布 | — |
| Dr.ケアワン | 昆布 | — |
右の列にも触れておきます。カナガンデンタル・ネルソンズ・エッセンシャルは、海藻とは別に「ミネラル類(…ヨウ素)」としてヨウ素も足しています。 海藻由来と添加ぶんの二本立てということです。
そしてここが正直に書いておきたいところなんですが、37点のうち、ヨウ素が何マイクログラム入っているかを数字で公表している商品は1点もありませんでした。 原材料表に名前は出ても量は出ない。だから飼い主の側で「うちの子は今日どれだけ摂ったか」を積算することはできません。上限までの余白を使い切らないように余裕を持たせる、という考え方になるのはそのためです。
うちのパフィが食べている半生フードと、毎日1本のガム(ドギーマンのホワイデント長持ち歯みがきギザ棒ガム)は、原材料表に海藻が出てきませんでした。半生タイプとおやつは、ドライほど海藻を使っていません。 上の表でおやつ・トッピングの16点が0点だったのと同じ傾向です。総合栄養食の選び方そのものは総合栄養食と一般食のちがいにまとめています。
乾燥わかめをそのまま与えないのは、ふくらむからです
戻していない乾燥わかめを、そのままの姿であげないでください。理由は水を吸うからです。
理研ビタミンは「ふえるわかめちゃん」の公式Q&Aで、水で戻すと重量比で10倍以上に増えると書いています。口に入ったあと、胃のなかで同じことが起きます。人なら「戻しすぎた」で済みますが、体重5kgの犬の消化管でそれが起きると話が変わります。
塩のほうも見ておきます。カットわかめの乾燥は100gあたりナトリウム9,300mg。1gで93mgです。ヨウ素の話をしているつもりが、実際にはひとつまみで一日ぶんの塩を渡していた、ということが起こります。心臓や腎臓に持病がある子ではここが先に効いてきます。
味付けのりも同じ理由で外してください。しょうゆと砂糖で味を付けたものは、のり本体より調味料のほうを食べさせることになります。あげるなら味の付いていない焼きのりです。
ヨウ素をとりすぎた犬に起きるのは、機能が下がるほうです

過剰と聞くと「働きすぎる」方向を想像しますが、犬で報告されているのは逆です。
ブエノスアイレス大学獣医学部のCastilloさんらが Veterinary Quarterly 誌(2001年・23巻4号)に出した報告があります。骨に変化の出た子犬を調べたところ、食べていた市販フードのヨウ素が多かった、というところから始まった研究です。子犬を3群に分けて、手作り食・乾物1kgあたりヨウ化カリウム5.6mgを含む市販フード・手作り食に同じ量を足したもの、をそれぞれ与えています。
結果は、市販フードの群と手作り食に足した群が甲状腺機能低下症になりました。 骨のほうにも差が出て、レントゲンで茎状突起の面積が有意に小さく、肥大軟骨も短くなっています。論文は「ヨウ素含有量の高い市販食は、甲状腺機能低下症と骨代謝の変化を起こしうる」と結んでいます。
AAFCOが上限を50mgから11mgへ引き下げたとき、根拠のひとつとして挙げたのがこの報告です。ただし公平を期すために書いておくと、欧州のFEDIAFはこの研究について「カルシウム・リン・カリウムが欠けた食事を、過剰な量で与えていた」と批判していて、そのうえで11mgという線を出しています。上限の数字自体、まだ議論の途中にあるというのが実際のところです。
だからこそ、上限に近づける食べさせ方をわざわざしない、という判断になります。子犬は特にそうで、この研究で影響が出たのも成犬ではなく子犬でした。
甲状腺の持病がある子と妊娠中の子には足しません
海藻を意図的に入れている製品には、はっきりした但し書きが付いています。ここは「少しなら」の話ではないので、線を引いておきます。
北大西洋の海藻アスコフィラムノドサムだけでできているデンタルパウダーは、日本では3つのルートで流通していて、どのルートも同じ内容の注意書きを載せています。 日本全薬工業の表記は「猫のホルモンの病気、妊娠時(犬・猫共通)の場合はご使用をお控えください」、ライトハウスの表記は「甲状腺疾患の場合と妊娠時は、ご使用をお控えください」。
プロデンのデンタルケア(犬猫用40g)

原材料は海藻100%の一行だけ。歯を削るのではなく、食べてから働くタイプです。中身と3ルートの見分け方はプロデンのプラークオフを犬に使う前に調べたことに詳しく書きました。
カナガンデンタルドッグフード2kg

同じ海藻成分をドライフードのほうに入れた設計です。公式の但し書きも「海藻成分はヨウ素が含まれるので甲状腺機能亢進症の愛犬、妊娠中・授乳中の愛犬には、ご使用をお控えください」となっています。原材料と給与量はカナガンデンタルの中身を調べた記事にまとめています。
注意書きが「亢進症」と書かれていることに引っかかった方がいるかもしれません。さっきの研究で起きたのは低下症のほうでした。ここは分けて読んでください。すでに甲状腺が働きすぎている子にヨウ素を渡すのは燃料を足すのと同じなので使わせない、という話であって、健康な子で過剰が続いたときに向かう方向とは別です。どちらにしても、甲状腺の治療を受けている子に海藻を足す判断は、飼い主がしないほうがいいところです。かかりつけに聞いてください。
与えるなら、量より先に出し方を決めておく
ここまでを踏まえて、実際に台所から分けるならこの形が無難です。
- 種類を焼きのりか、戻したわかめに決める。 昆布は最初から候補から外しておくと迷いません
- 味の付いていないものを選ぶ。 味付けのり・佃煮・酢の物は調味料のほうが問題になります
- 乾燥わかめは必ず水で戻してから、しっかり刻む。 犬は噛まずに飲み込むので、繊維の長いままだと消化に回りません
- 量は上限ではなく、上限の1割を目安にする。 焼きのりなら全形1枚半、戻したわかめなら小鉢半分くらいまで
- 初めての日は少量にして、翌日の便を見る。 うちのパフィはもともと便が安定しないタイプなので、新しいものを足すときは1つずつにしています
はじめて食べさせるものを2つ同時に出さない、というのは海藻に限らず効きます。何かあったときにどちらが原因かわからなくなるからです。トッピング全般の足し方はドッグフードのトッピングの選び方にまとめました。
元気と食欲があるなら、1日様子を見て構わない

だしがらを一枚まるごと持っていかれた、味噌汁をひっくり返された、という日もあると思います。落ち着いて見るところは2つです。
元気と食欲があるかどうかが、いちばん大きい分かれ目です。 便が少しゆるいだけで、いつもどおり動いてごはんを食べているなら、まず1日様子を見て構いません。ヨウ素の上限は「その日1日で決まる」ものではなく、続いたときに効いてくる数字です。
反対に、ぐったりしている・吐き続ける・何度も吐こうとして何も出ないなら、時間を置かずに連れていってください。うちのパフィは以前ビーズを飲み込んだことがあって、そのときは元気がなくなって舌が真っ白になり、床に倒れ込みました。注射を打ってもらって翌日には戻りましたが、あのときの「明らかにいつもと違う」感じは今でも覚えています。元気がなくなったら様子見の枠から出す、というのがうちの基準になりました。
戻していない乾燥わかめをまとめて食べた場合も、量が多ければ早めに相談してください。下痢が続くときの見分け方は犬の下痢のときの3段階の仕分けに書いています。通院にいくらかかるかは犬の医療費の実額が参考になると思います。
海藻の心配は、袋の裏を見るところから始まります
長く書きましたが、やることは多くありません。まずフードの袋の裏を見る。 海藻が入っていれば、その子はもう毎日ヨウ素を摂っています。そのうえで台所から足すなら、昆布を候補から外して、焼きのりか戻したわかめを少しだけ。
いちばんの落とし穴は昆布でした。0.5gで5kgの犬の1日ぶんに届いて、しかもその中身は茹でた30秒で汁のほうへ半分移る。だしがらを隠すより、汁を床に置かないほうが効きます。
うちはまだ海藻を分けたことがないんですが、この数字を見てからは、あげるにしてものり一択かなと思っています。パフィは鍋の湯気に反応するだけで昆布そのものには興味がなさそうなので、そこは助かっています。








